私の靴

学校では今、エナメル素材のスニーカーが大流行りだ。きいちゃんもこの前、誕生日プレゼントにナイキのブルーのやつを買ってもらったとみんなに自慢していた。それなのに私は、小6から使ってる、はき古しの革靴。放課後みんなで帰る時なんか、光沢に満ちたカラフルな足元に混じる私の靴は、本当にカッコ悪く見える。みんなだって何も言わないけど、私の靴ダサいなって思っているに決まってる。

友達と別れて、一人商店街を歩いていたときのことだ。私はふと目にしたショーウィンドウに釘付けになった。そこには、スカーレット色に輝く上品なエナメルのスニーカーが置いてあった。クリスマスソングを後ろで聴きながらガラスに顔を押し付けて、いつまでも見入った。そして、あの靴をはいた自分を思い浮かべてみた。紺の制服に、スカーレット色の鮮やかな色彩はとびきり映えるだろう。きいちゃんのナイキのよりもっとキラキラしててかわいいし、みんなもきっとうらやましがるだろう。
ひとしきり妄想に浸ると、私は確固たる意志を胸に、走って家に帰った。

「お母さんあのね、さっきすっごいかわいい靴見つけたの。ねえ、クリスマスプレゼントに買って、お願い。」
息を切らしながら、私はお母さんに頼んだ。だけどお母さんは、台所で煮物を作りながら生返事を繰り返すばかり。
「ゆきはこの間だって、セーラームーンの光る靴がほしいって言ってさんざん騒いだくせに、いざ買ってみたら半年もはかなかったじゃない。」
「それは・・・、そんな昔の話されても困るよ。私もう中学生なんだよ。みんな流行りのオシャレな靴をはいてるのに、私だけあんなボロい革靴、恥ずかしいよ。お母さんて全然分かってくれてない。」

少し興奮しすぎた。頭に血が上ってきてほてった顔の私にお母さんが言う。
「あの革靴だってカッコいいじゃない。」
「カッコいいわけない・・・。」
否定したものの、お母さんがカッコいいと言ったことがちょっと意外だった。「素敵」とか「かわいい」とは違う、自分と同世代の子が使うリアルな言葉のように、一瞬聞こえたのだ。

「あれね、お母さんが高校生の時に買った靴なの。」
「えー、何十年前の話だって。」
「ふふ。今初めて言うけどね、あの靴は・・・」
「え?なになになに?」
私はいつのまに怒っていたことを忘れ、お母さんのペースに引き込まれていた。お母さんは何度もくすくす笑って、もったいぶって話してくれない。「早く言ってよ」と言いながら、私もつられて笑い出してしまった。
「実はあれ、お父さんとの初めてのデートの前日に買ったものなの。高かったんだけど、どうしてもあの靴をはいて行きたくって。」
そこまで言うと、私もお母さんも声をたてて笑い合った。お母さんは煮物を必要以上にかき回し続けていた。

その夜、布団の中で、高校生のお母さんがあの靴を買おうとしているところを思い浮かべてみては、くすぐったい気持ちになって一人にやけていた。お母さんはずっと私の母親だと思ってたけど、女の子としてのお母さんがそこにはいた。私はそんなお母さんを愛おしく思った。

それから、小6の時、初めてあの靴を押し入れの奥から見つけた時のことも思い出した。ちょっとレトロで大人っぽいオリーブグリーン色の編み上げ靴。年季が感じられるのが逆にカッコよくて、小六の私の足にはちょっと大きかったけど、中敷きを入れてもらって無理してはいたんだった。そして、その靴を褒めてくれた子も、学校で一人だけだったけど、いたんだった。自分の世界を持ってるオシャレな男の子で、それだから私はあの靴をよりいっそう好きになったんだった。

次の日、私はいつもの革靴をはいて学校に行った。いい感じにくったりしたオリーブグリーンは、紺の制服にしっくり合う。あのスカーレットは半年したら飽きちゃうかもしれないけど、この革靴は一生はき続けるんだ。

私は足取りも軽やかに、学校まで走って行った。

※17歳の時に予備校の課題で作ったストーリーに、少し加筆修正しました。

【課題】負の状況から始まるストーリー
【評価】100点中75点(現役生らしい等身大の物語がいいとのことでVery goodもらえた)

▲ + ▲


【感想】
いや、靴ってそんな何十年もたんだろうと。
毎年のように新しい靴を買ってあげなよ、、っていうツッコミしかない笑
でもこの主人公が12歳でお母さんがまだ30歳くらいだとして、12年前の18歳頃に買った革靴ならまだもつかな。。。(ꙭ;)

それから私には『かたっぽ』という靴をテーマにした片想いの曲があるけど、昔から靴に対して何かしらの思い入れがあったのかもしれないと思った。自分の足が幅広ですぐ足指の骨が痛くなってしまうため華奢な可愛い靴が履けないのもコンプレックスとしてずっと持っていたし、そのせいか人の足元を見てしまうところがあるなぁと。くたびれるまでずっと同じ靴を履き続けている人を見ると、自分のことも大切にしてくれるのかなと思ってしまったり。。

締めは実家の16才猫ちゃんのチラ牙です。
猫は何年経っても可愛いまま劣化しないですね♡

2件のコメント

  1. 素敵な文章をありがとうございました!
    ずっと聴いてる曲「かたっぽ」の話題も出て、嬉しかったです!

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